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Case Study Court-House 1


平屋のコートハウス1: 小さな広い家


所在地    茨城県土浦市
構造     木造
規模     平屋
敷地面積   182.78㎡
延床面積   50.09㎡
竣工     2009年4月30日
主要用途   住宅
施工     株式会社コイズミ
写真家    石黒 守 

設計主旨:小さな広い家


 独りの女性(施主)が家を建てる事を企てた。この家では、建築という行為そのものが女性一人と愛犬一匹の生き方の主張である。この家は、さながら助手席に愛犬を乗せて走る2座席オープンカーのようにコンパクトで、多少不便な面を差し引いてもドライブが楽しいのと同じように、住むこと、生きる事それ自体がより楽しいと考えられることを意図して設計している。


 この家は、小さい建築であることによる利便性と楽しさを享受しつつ、「感覚的な広さ」を獲得する計画を目指す事が利にかなっていると考えた。そのため、この家では、前庭と中庭の二つの庭を計画した。ここでいう「広さ」という定義は、単に数値上の面積ではなくて、もっと周囲の田園の広がりや、のんびりした感じ、大げさに言えば大地や空の広さを感覚的にとらえる事を示す。リビングのソファに腰掛けると、その二つの庭は晴れの日に目の前に広がる田園風景、雨の日に中庭に落ちる雨の風景など目に見える光によって感じる広さだけでなく、通り抜ける風の感触や耳に聞こえる風の音など、目を閉じれば草原の真ん中にいるように感覚的な広さを増幅してくれる。

 そもそも、この小さな家は、身体拡張能力の限度ぎりぎりの大きさであるため、家全体を五感で感じとることができるように思う。自分の理解の範囲にある空間はそれだけで安心感があり心地よい。
 また、景色のよい前庭を開放したい一方で、女性一人暮らしの防犯上のセキュリティに妥協しないという、相反する要望が存在する。これに対し、我々のとった解決策は、ベッドルーム一室を強固なセキュリティによって守ることにより、それ以外のリビングなどの空間を外部空間との曖昧さをもって開放するという計画であった。


 バスルームと洗面など水廻りは、昔ながらの日本家屋を倣って「離れ」としてゾーニング計画した。規制されない心地よい曖昧さを持った屋外である中庭を通ってアプローチすることができる。この「曖昧な中庭」の存在により、愛犬は飼主が留守の際にも、自分の気に入った場所へと屋内・屋外の区別なく自由にたどり着くことができる。犬にとっては、我々人間が感じるよりももっと屋内・屋外の区別はないように思える。


 女性が独立して生き生きと暮らすには、強く生きる意思が必要だと考えている。この家では、その拠りどころとしての壁を力強い質感のある素材としている。住宅を通して独りで生きるという生き方に対する一つのささやかな提案を試みた。