遺言書の作成
遺言は、相続における被相続人の最終的な意思を確認する重要な手段であり、死亡後の法律関係を決定します。民法上では、法定相続人に優先し、その意思が確実に実行されるように定められています。法律にしたがってきちんと作成しないと、せっかくの遺言も無効となってしまいます。遺言書を作成する前には、作成を依頼するしないにかかわらず、ぜひご相談ください。
遺言書作成のメリット
遺言書を作成することのメリットは大きく分けて2つあります。
- ①親族間での争いが生じにくくなる
- ②自分の思い通りに財産を分配することができる
被相続人が財産の分配について何も言わずに亡くなると、残された相続人が集まり話し合いによって分配方法を決めることになります。
これを「遺産分割協議」と言い、この話し合いで財産を巡っての争いやもめごとを起こして、兄弟仲が悪くなるというケースも少なくありません。
財産が金融資産だけであれば、財産の分割も簡単で分けやすいのですが、不動産や株といった財産の場合、誰がどれを相続するのかなど、相続人間で利害が衝突して上手くまとまらないことが多くなります。
しかし、被相続人が残した遺言書があれば、相続人はそれに従うことになります。
このように争いを未然に防ぐためにも、遺言書を作成しておく必要があるでしょう。
また、兄弟間の争いの防止のみならず、以下のようなケースに該当する場合も、遺言書を作成しておくことは大変有効です。
■子供がいないので妻に全財産を相続させたい
- 夫婦間に子供がいない場合、相続人は妻と親か、妻と兄弟姉妹になります。遺産の全額を妻に相続させるためには、遺産は妻に全部与えるという旨の遺言書が必要になります。
■妻に先立たれ、老後の面倒を見てくれた息子の嫁に財産の一部を相続させたい場合
- 息子の嫁は、夫の親に対しての遺産の相続権はありません。息子の嫁に財産の一部を贈りたい場合は、その旨を記した遺言書が必要になります。
■相続人がいない場合
- 相続人がいない場合、特別な事由が無ければ遺産は国庫に帰属してしまいます。それを望まない場合は、お世話になった人などに遺産を譲る旨の遺言書を作成しておく必要があります。
■財産が住んでいる家と土地しかない場合
- 預貯金がなく、住んでいる家と土地しかない場合、財産を妻と兄弟で分配するには、家や土地を売却しなくてはいけませんので、残された妻は住み慣れた家を手放さなければならないような事態が出てくるかもしれません。このような事態を避けるには、妻のその後の生活の安定を図るように記した遺言書が必要になります。
■事業、農業を継続させるために、財産を細分化したくない場合
- 個人で事業を行っている場合、その経営権も個人の財産ということになります。つまり相続の対象になりますから、それらが法定相続分により細分化されてしまうと、事業継続が難しくなってしまいます。そのような事態を避けるには、後継者に事業上の財産を相続させる旨の遺言書が必要になります。
■相続人の中に素行の悪い者がいる場合
- 相続人の中に素行が悪く、親の面倒は一切見ようともしないなど、ほとんど疎遠な状態が続いている相続人がいる場合、その者には遺産を残したくないと思うでしょう。その場合、その相続人の遺産の相続分を少なくするなどを記した遺言書が必要になります。
■先妻の子供と後妻の子供がいる場合
- 先妻と後妻の両方に子供がいる場合、先妻の子供と後妻の子供が遺産の取り分を主張するという紛争がよく起こります。このような争いを防ぐには、遺産の配分を記した遺言書を残しておくことである程度防ぐことができます。
■未認知の子供を認知したい場合
- 愛人との間に子供がいたが、どうしても認知できなかった。生前に認知することができなかったが、遺言によって認知することも可能です。
■孫にも財産の一部を相続させたい場合
- 子供や配偶者が存在する場合、孫には相続権がありません。生前贈与をすることもできますが、贈与税がかかり割高になることもあります。
遺言書作成のポイント
遺言は、一生懸命働いて築き上げてきた財産を円滑に相続するための最善の方法です。
大切にしてきた家族への最後の仕事といえます。
遺言においては、遺言者の真意が正確に伝えられることと、相続人の間のトラブルを避けることが最も重要です。そのため、種類・様式・書き方などは民法において厳格に規定されています。法律どおりにきちんと作成しなければ、せっかく書いた遺言書も無効となってしまいます。
またルールはしっかり守られていても内容が曖昧だったり、色々な意味に解釈できてしまったりする場合には争いの原因につながります。
遺言というと「縁起でもない」といったイメージを持たれる方がまだ多いかもしれませんが、遺言書は財産を分けるためだけに書くものではありません。
自分の「想いを伝える」ご家族への最後の手紙という意味合いもあります。残された相続人の気持ちに充分配慮した言葉が残されていれば、必すしも満足でなくても相続による争いが防げるのではないでしょうか。
家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割の争いの3分の2は遺言を書いておけば防げたものであると言われています。
財産を持つ者にとっては、しっかりとした遺言書を残すことは義務といっても過言ではありません。
遺言書の種類とおもな特徴
遺言書は大きく分けて、普通方式と特別方式の2つがあります。
普通方式による遺言には次の3種類の方法があります。若干費用がかかりますが、最も安全で確実な方法は公正証書遺言です。手続きや費用については、ぜひご相談ください。
種類
①自筆証書遺言
作成方法遺言者が全文、日付、氏名を自書し押印(認印可だが実印が望ましい)。ワープロ、テープは不可。
②公証証書遺言
秘密証書遺言
日付は年月日まで記入。遺言者が口述、公証人が筆記。
印鑑証明書・身元確認の資料・相続人等の戸籍謄本、登記簿謄本などの書類が必要。自筆証書遺言と同様に作成し、署名印と同じ印で封印。住所・氏名と本人のものに違いない旨の宣誓。
公証人が日付と本人の遺言であることの確認を記載する。代筆、ワープロ可。場所自由公証役場公証役場証人不要2人以上2人以上署名捺印本人本人、公証人、証人本人、公証人、証人家庭裁判所の検認必要不要必要メリット
- 作成が簡単で費用がかからない。
- 遺言内容や遺言の存在を秘密にできる。
- 改ざん、紛失のおそれがない。 証拠能力が高く、無効になるおそれがない。 検認手続きが不要
- 改ざんのおそれがない。
- 遺言内容が秘密にできる。
- 遺言の存在は公証されているので偽造の恐れが少ない。
デメリット
- 改ざん、紛失のおそれがある。
- 様式の不備で無効になるおそれがある。
- 内容が不完全なことにより紛争になるおそれがある。
- 検認手続きが必要。
- 手続きが繁雑。 公証人の手数料がかかる。 遺言の存在と内容を秘密にできない。
- 手続きが繁雑。 公証人の手数料がかかる。 遺言の内容は公証されていないので紛争になるおそれがある。 検認手続きが必要。
遺言書の検認手続きとは
相続人等関係者が、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に検認の申し立てをし、家庭裁判所が遺言書の形式・状態を調査、確認する手続きです。
検認は、遺言者の遺言であることを確認し、証拠として保全することを目的とする手続きであって、遺言書の有効無効を判断するものではありません。また、「相続人」全員に対して、「遺言」の存在とその内容を知らせる手続きでもあります。
「検認」の調査結果は『調書』に記載され、「遺言書」の写しが添付されます。『調書』には…封筒開封の有無/遺言書の枚数/紙質/大きさ/字体/加除訂正の有無/筆記用具の種類/印影の有無/形状などが、具体的に記載されます。
「検認」では、「遺言」として有効かどうかを判断したり、「遺言書」作成時の「遺言者」の本意を調査するわけではありません。
「検認」の調査結果について争点がある場合は、別途、裁判や調停・審判を申し立てることによって、解決を図ります。
なお、「公正証書遺言」では、「公証人」が「遺言書」を作成するため《公の記録》が残されています。したがって、重ねて「検認」を行う必要はありません。
封印されている「遺言書」は、家庭裁判所における「検認手続」において、「相続人」全員の立会いのもとで開封することになっています。したがって、「検認手続」を行う前に「遺言書」を開封しないよう、注意が必要です。
封印のある「遺言書」を、「検認手続」の前に誤って(?)開封してしまったら、その「遺言書」は無効…というわけではありません。(これでは、「遺言者」が浮かばれませんね‥)
《開封後の「遺言書」》について「検認手続」を行うことになりますので、速やかに「検認」の申立てをします。「遺言書」を開封した場合は、申立ての際に「遺言書」の写しが必要です。
遺言の執行
遺言執行者
遺言執行者とは、遺言書に書かれている内容を実現するために、相続財産の管理や遺言書の内容通りに遺産分割をするなど、遺言を執行する権利を持つ人のことです。
■遺言執行者の資格要件
未成年者と破産者を除いては誰でも遺言執行者になれます。特に資格などは必要ありませんが、専門的知識や経験が豊富な者に選任してもらったほうが安心です。
自分達で行うと、かなりの時間を費やすことが多いので、やはり専門家に依頼することをお勧めいたします。
■遺言執行者の選任
遺言をしようとする者は、遺言により遺言執行者を指定するか、第三者にその指定を委託できます。
ただし、法律上の規定により、遺言執行者になれない人を指定したり、遺言事項でない事項について遺言執行者を指定しても無効となります。
■遺言執行者が必ず必要な場合
・相続人の廃除及び廃除の取消し
・子の認知
上記の場合は、遺言執行者が必ず必要となります。法定相続人だけでは、公正な遺言執行が期待できないとみて、中立な立場の遺言執行者が必要となります。
■遺言執行者に対する報酬
遺言執行者への費用は、相続財産から控除できます。
2.遺言執行者の職務・権限
遺言執行者は、遺言を執行するための一定の職務と、必要な権限を有します。
1 遺言執行者は、まず、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければなりま
せん。
相続人の請求があるときは、その立会いのもとに相続財産の目録を作成し、又は公証
人に作成させなければなりません。
2 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利
義務を有します。
しかし、遺言執行者に義務を免除した次のような判例もあります。
「A不動産を、相続人甲に相続させる遺言がなされた場合、甲は単独でA不動産の所有
権移転手続きをすることができ、遺言執行者は、遺言の執行としての登記手続きをする
義務を負いません(最高裁判所判決平成7年1月24日)」。
3 遺言執行者は、必要があるときでも、第三者に任務を行わせることはできません。
しかし、やむを得ない事由があるとき、および遺言で許されている場合に限り、第三者
○遺留分
1.遺留分
遺留分というのは、法律が保証した最低の相続分です。
遺言書において、法定相続分と異なる相続分を指定することもできますが、相続人が遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)をすると、遺留分の範囲で遺言は無効となります。
遺留分を有するのは、配偶者、子及び直系尊属(父母等)であり、兄弟姉妹には遺留分がありません。
相続開始前1年間になされた生前贈与も遺留分減殺請求の対象となります。
2.遺留分減殺請求
遺留分を侵害された者は、被相続人が亡くなったことおよび贈与や遺言によって自分の遺留分が侵害されていることを知ったときから1年以内、もしくは、被相続人が亡くなったときから10年以内に、遺留分減殺請求をする必要があります。
遺留分減殺請求は、家庭裁判所ではなく、相続人に対して直接行います。請求した日付が重要となりますので、通常は内容証明郵便で行います。
遺留分減殺請求は、相手方に到達した時点で効力が発生します。
○付言事項
遺言には、法律で定められていない事項を付事した項目を、付言事項と言います。
この付言事項は、法的な効力を有しないものの、遺言者の真意を伝えたり、希望を書くことが出来ます。
例えば、全財産を妻に相続させる遺言を作成したとき、遺留分の無い兄弟に対して、何故その様な遺言書を作成したのかを書き、遺された妻と兄弟間の争いを少しでも防止出来るように配慮したりすることも出来ます。
他にも、葬儀の方法について書いたり、献体の希望を書いたり、遺された親族に対しての様々な希望を書いたりもできます。
しかしながら、付言された事項に法的な効力はありませんから、それを守るかどうかは相続人次第で、相続人には、付言事項を尊重していただき、結果として付言された内容が実現されることを望むほかにありません。
それでも、事後の争いを少しでも防止する意味からも、遺言者の想いをはっきりと相続人に伝える事は重要なことです。
遺言信託
・遺言書作成から、保管、執行まで、責任を持ってお引き受けいたします。
(1)遺言書に関するご相談
遺言は、遺言者の意思を相続後に残すものですので、遺言者様の意思を明確に反映するため綿密なご相談を行います。
(2)遺言書の作成
遺言書には、いくつかの種類がございますが、一番確実な方法でもある公正証書遺言を作成していただきます。
(3)遺言書の保管
遺言内容を他人に知られないためにも、遺言書の保管には十分注意が必要です。
当法人では、遺言書の保管も行っております。
(4)遺言の執行
相続開始と共に、当法人は遺言執行者として、遺言書に基づき財産の管理・処分・分配を的確に行います。
☆ 詳しくは、当法人までお問い合わせ下さい。