生前贈与

生前贈与は相続税の節税の柱となるものの一つです。
贈与税の負担を最小限に抑えたうえで、生前に親から子などに財産を少しずつでも贈与することによって相続財産を減らしていき、相続税の負担を軽くします。


生前贈与を利用した相続税対策は相続の対象となる財産自体を少なくする方法の節税対策の中でも特に有効な手段になります。


手続き自体は比較的簡単に行うことができますし、時間をかけることで着実に効果の上がる対策といえます。また、贈与は証拠づくりが非常に大切ですので、贈与契約書の作成、金銭贈与の場合は金銭の徹底した管理、不動産や株式などについては名義変更手続きなど、なすべきことはしっかり行っていきましょう。


贈与税については「暦年課税」と「相続時精算課税」とがありますので、以下に解説をしています。




①暦年課税を利用した相続税対策
贈与税の1年間の基礎控除額である110万円の枠を利用して、毎年複数の法定相続人に対して贈与していく方法です。
現金を110万円ずつ贈与していく方法でもかまいませんが、不動産を贈与する方がより効果的といえます。


土地を贈与する場合 建物を贈与する場合
評価方法 財産評価基準書による「路線価」または「評価倍率表」 「評価証明書」(各市町村役場にて取得できます。)に記載された評価額


土地・建物とも、実際に取引されている価格より低く評価されますので、現金よりは効率のいい相続税の節税対策ができます。
この暦年課税を利用した相続税対策は一人あたり110万円と少しずつしか贈与できませんので、毎年行うことが大切になりますし、毎年行うことで着実に効果が上がる相続税の対策になります。




具体的な流れ
暦年課税を利用した相続対策で「土地」の贈与を行う場合には、以下のような流れで手続きを行うことになります。


①贈与契約書の作成
  贈与契約を結んだことを書面にしておきましょう。
②贈与する不動産の登記名義を変更します
  贈与契約は結びましたが、公的な証拠を残しておかなければなりませんので、不動 産の登記名義を変更する手続きをしなければなりません。


<登記に必要な書類>
登記には以下のような書類が必要になります。
・贈与をする人(贈与者)の権利証
・贈与をする人(贈与者)の印鑑証明書
・贈与を受ける人(受贈者)の住民票
・対象不動産の評価証明書


権利証を除くすべての書類は市町村役場で取得することができます。


なお、連年贈与を利用した相続対策を現金で行う場合には以下のことを行うようにしましょう。現金で贈与した場合は、その経緯を残しておかなければなりません。


ですから贈与する者の口座から贈与を受けた者の口座に送金されたという記録を必ず残しておかなければなりませんし、贈与契約を結んだことを書面にしておかなければなりません。また、贈与を受けた翌年2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告書を税務署に提出しましょう。


※連年贈与を利用した相続税対策を行う上での注意
例をあげると10年間毎年規則的に110万円ずつを贈与していった場合には最初に1,100万円を贈与する意図があったと税務署に扱われてしまうことがあります。
長期間に渡ってこの対策を行うということであれば、一度お問い合わせください。








②配偶者控除を利用した相続税対策
相続税において配偶者が優遇されたのと同じように贈与税においても一定の条件を満たすことによって配偶者が優遇される制度があります。
配偶者に対して居住用の財産を贈与した場合には2,000万円まで贈与税が無税になる制度です。上手く利用すれば贈与税の基礎控除と合わせて2,110万円まで贈与税が課税されないことになります。
また、相続開始前3年以内に贈与された財産は「みなし相続財産」となってしまいますが、この配偶者控除を受けた場合だとみなし相続財産とはならないとされています。
なお、配偶者控除を利用するには以下の条件を満たす必要があります。


① 婚姻期間が20年以上である配偶者への贈与であること
② 贈与した財産が居住用の財産、あるいは居住用の財産を購入するための金銭であること
③ 居住用の財産の贈与である場合は翌年3月15日までに居住し、その後も引き続き居住する見込みがあること
④ 今までに、その配偶者からの贈与について配偶者控除を受けていないこと
⑤ 贈与税の申告をすること




【どの財産を贈与すべきか?】
贈与する財産として考えられるのは土地のみ、建物のみ、土地と建物の両方ですが、建物は時間が経てば価値が下がりますので、土地のみの贈与するのが1番いいでしょう。
また、贈与する財産が高額である場合には2,110万円分の「持分」を贈与することが可能です。






※居住用財産を近いうちに売却する予定がある場合には土地と建物の両方を一部ずつ贈与する方が有利です。居住用財産を売却する場合、土地と建物の両方を持っていれば所得税の3,000万円の特別控除が認められます。
これを利用しつつ、土地と建物の一部を配偶者に贈与して、共有状態の土地と建物を売却すれば、2人分を合わせて6,000万円の特別控除が認められることになります。










③住宅取得資金を利用した相続税対策
子供がマイホームを取得する場合に親が頭金を出してあげるというケースはよくあることだと思います。
このような場合には一定の額まで控除を受けることができますので、この制度を利用して相続財産自体を減らしていく相続対策です。
子供に対して住宅取得等のための資金を贈与した場合には、平成23年は金1,000万円までは贈与税がかからないことになります。




平成22年中の贈与 平成23年中の贈与
非課税限度額 金1,500万円 金1,000万円
土地の取得資金について 住宅の新築・取得とともにする場合のみ対象(建築条件付の場合のみ、先行取得でも可) 贈与の翌年の3月15日までに住宅が新築される場合であれば、土地取得資金についても適用可




この制度を利用する場合には以下の点に注意が必要です。
ポイント①(申告)
期限内申告が必要(贈与税の申告期間は贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までです。)
ポイント② (併用)
暦年課税や相続時精算課税と併用が可能(非課税枠の拡大)
暦年課税と併用した場合 1,000万+110万=1,110万
相続時精算課税と併用した場合 1,000万+2,500万=3,500万
住宅取得資金を利用した相続税対策を行う場には以下の要件を満たすことが必要です。


(イ)受贈者等の要件
① 贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること
② 贈与を受けた時に贈与者の直系卑属であること。
③ 贈与を受けた年の 1 月 1 日において、20 歳以上であること(平成 22 年の贈与については平成2年1月2日以前に生まれた人、平成 23 年の贈与については平成3年1月2日以前に生まれた人となります。)。
④ 贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が 2,000 万円以下であること。
⑤ 贈与を受けた年の翌年 3 月 15 日までに、住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築若しくは取得又は増改築等をすること。
⑥ 贈与を受けた年の翌年 3 月 15 日までにその家屋に居住すること、又は、同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。




(ロ)新築又は取得の場合の要件
1.新築又は取得した住宅用家屋の登記簿上の床面積(マンションなどの区分所有建物の場合はその専有部分の床面積)が 50 ㎡以上で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されるものであること。


2.取得した住宅が次のいずれかに該当すること。
① 建築後使用されたことのないもの
② 建築後使用されたことのあるもので、その取得の日以前 20 年以内(耐火建築物の場合は 25 年以内)に建築されたもの(注) 耐火建築物とは、鉄骨造、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造などのものをいいます。
③ 建築後使用されたことのあるもので、地震に対する安全性に係る基準に適合するものとして、「耐震基準適合証明書(家屋の取得の日前2年以内にその証明のための家屋の調査が終了したものに限ります。)」又は「住宅性能評価書の写し(家屋の取得の日前2年以内に評価されたもので、耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)に係る評価が等級1、等級2又は等級3であるものに限ります。)」により証明されたもの


(ハ)増改築等の場合の要件
① 増改築等後の住宅用家屋の登記簿上の床面積(マンションなどの区分所有建物の場合はその専有部分の床面積)が 50 ㎡以上で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されるものであること。
② 増改築等の工事が、自己が所有し、かつ、居住している家屋に対して行われたもので、一定の工事に該当することにつき「確認済証」の写し、「検査済証」の写し又は「増改築等工事証明書」により証明されたものであること。
③増改築等の工事に要した費用の額が 100 万円以上であること。(注) 増改築等の工事の部分に居住の用以外の用に供される部分がある場合には、増改築等の工事に要した費用の額の2分の1以上が、自己の居住の用に供される部分の工事に充てられなければなりません。






④相続時精算課税について
相続時精算課税とは、贈与時の贈与税負担を抑えて、相続税を納付するときに贈与税を精算する制度です。平成23年の税制改正により60歳以上の親または直系尊属から20歳以上の子・孫への贈与については、2,500万円まで非課税になる特別控除が設けられ、相続する時に生前贈与された財産を相続財産に組み込んで相続税を課税するという仕組みです。


いわば、贈与税の後払いにし、相続税と姿を変えたようなものです。2,500万円を超えた場合には、超えた金額に対して一律20%の贈与税がかかりますが、これは相続する時に相続税から引かれます。


一方で、この制度を利用して贈与した分に関しては相続時に全て相続財産の中に含まれ、再度税額を計算されることになりますので、贈与時には非課税な場合であっても、実際には相続時に税金が課税される場合があります。
要するに贈与する以前の状態で、相続税がかかるような財産をお持ちの方だと、この制度を利用して財産を贈与しても単純に贈与税が非課税になるわけではありません。


なお、この制度を利用する際については、以下の条件を満たす必要があります。


平成22年(改正前) 平成23年(税制改正大綱案)
贈与者 65歳以上 60歳以上
受贈者 20歳以上の推定相続人 20歳以上の推定相続人および孫
届 出 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、税務署へ「相続時精算課税制度」を選択する旨の届出が必要となります。(贈与税がかかる、かからないは問題とならないことに注意が必要です)
贈 与対象者 受贈者である兄弟姉妹または孫が別々に、贈与者である父・母・祖父・祖母ごとに選択が可能




*東日本大震災の影響により、平成23年度の税制改正は成立の目処がたっておりません。上記表は平成23年度税制改正大綱の内容を記載したものです。






⑤贈与税の計算
贈与税は、その年の1月1日から12月31日までの間に贈与を受けた財産の合計額に対し課税されます。課税価格が算出できたらその金額から110万円(基礎控除額)を控除します。
最後に控除した額に一定の税率を乗じて一定の控除額を引いた額が贈与税額となります。
贈与財産の中には、現金や不動産などの一般的なものだけでなく、以下のような実際には贈与を受けていなくとも「みなし贈与財産」として、贈与税が課税される場合があります。
①生命保険金保険契約者(保険料を負担した者)と被保険者が父親で保険金の受取人が子供の場合に、生命保険の満期がきて子供が満期保険金100万円を受け取った場合だと実際に財産を譲り渡してはいませんが父親から子供への贈与と扱われます。
②低額による譲り受け実際の価格より常識から見てあまりに安く売買を行ったというような場合です。時価から買主が実際に支払った額を引いた額の贈与があったと同じに扱われます。
③債務免除お金を貸していたが、その借金を免除したというような場合です。お金を貸した者から借りた者への贈与があったと同じに扱われます。
④信託財産について信託とは財産をもつ者(委託者)が財産の運用を一定の者(受託者)にまかせることです。信託によって受託者が利益を出した場合には委託者が決めた者(受益者)にその利益が帰属します。受益者が委託者自身でない場合に受益者は委託者から贈与を受けたのと同じと扱われます。


先の説明のとおり、東日本大震災の影響により、平成23年度税制改正法案の主要部分については成立の目処はたっておりません。
 現時点では、税制改正法案がどのような形で成立するのか不透明な状況ですが、ここでは贈与税率が改訂される予定の平成23年度税制改正大綱の内容を紹介していくことにします。




⑥贈与税の申告
その年の1月1日から12月31日までの間に110万円を超える贈与を受けた人は贈与税の申告をすることになります。
申告期限は翌年2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告書を税務署に提出することになります。なお、納税は申告と同時に納付しなければなりません。


なお、以下のケースにおいては、贈与税が発生しなくとも税務署への届出が必要となります。
・相続時精算課税を利用した場合
・配偶者控除を利用した贈与
・住宅取得資金のための贈与